SS230407白紙26
SS230407白紙26…🖊
ふと気が付くと、
桜の花びらが一片
突然、吾輩の目の前に現れた。
いや、吾輩が目の前の
白き原稿用紙の
あまりの眩しさに、
開け放した窓から
花びらが舞い降りてきたのを
気が付かなかっただけである。
それはまるで原稿用紙が
外の春の世界をペンにのせて
その世界を書き給えと
花びらを誘い寄せたようであった。
コンコン。
「あなた、入りますよ。
あら、桜の花びらが原稿用紙の上に。
まぁ、あなた。
まさか読者にその花びら一枚を
原稿用紙に貼り付けて
一作品として本にするわけではないでしょうね」
この愚妻は何を言っているのだろうか。
そんな事が許されるのは
仏蘭西の文豪ヴィクトル・ユーゴーが
レ・ミゼラブルの売れ行きを問うた
「?」→「!」
という世界一短い手紙ぐらいなものである。
そして残念ながら
吾輩の読者には、一片の桜の花びらのみの小説を
理解できるものなどおらん。
吾輩は溜息をついた。
そして愚妻の差し出した湯飲みの中味を
一口含んだ。
「!これは桜の甘酒か」
「ええ、そうですよ。
古い友達から送られてきましてね。
美味しいでしょう」
「う、うむ。桜のほのかに香る甘酒というのも
風情があっていいな」
ふぅ。こういうのを飲むと
大正ロマンの淡い恋愛小説など
書きたいものである。
だが。
「あなた。また編集さんから
無理難題をおっしゃられているのでしょう?」
「うむ。なんでも互いに
遠く離れた病院に入院している
二人の老人が、
スマホで連絡し合って
じわじわと互いに相手を追い詰め合って行き
最後は・・・という
風情も何も無い真っ白で無機質な病室で
繰り広げられる、
この原稿用紙のような
世界を書けと言われているのだ」
「まぁ、恐ろしい。
あなた、ちょっと散歩にでませんこと。
そんなことを考えていたら
頭がまいってしまいましてよ」
「・・・それもそうだな。
少し休憩しようか」
「ええ、街の家々に植わっている
花をみながら喫茶店にでも
まいりましょう。
たまには原稿用紙を
そこで書いてみるのも
気分転換になりましてよ」
「お前にしては珍しいな。
なんか買いたい物があるのではないか」
「そうですね。それじゃぁ帰りに花屋さんに寄って
花を一輪求めましょうか」
「む。それもいいな」
その花は、その後吾輩の机の上を
彩ることになるのを
吾輩はその時知らなかった。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
サイドバーにある、お好きなアイコンを
ぽちりと押して下されば、
望外な喜びです。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m
ふと気が付くと、
桜の花びらが一片
突然、吾輩の目の前に現れた。
いや、吾輩が目の前の
白き原稿用紙の
あまりの眩しさに、
開け放した窓から
花びらが舞い降りてきたのを
気が付かなかっただけである。
それはまるで原稿用紙が
外の春の世界をペンにのせて
その世界を書き給えと
花びらを誘い寄せたようであった。
コンコン。
「あなた、入りますよ。
あら、桜の花びらが原稿用紙の上に。
まぁ、あなた。
まさか読者にその花びら一枚を
原稿用紙に貼り付けて
一作品として本にするわけではないでしょうね」
この愚妻は何を言っているのだろうか。
そんな事が許されるのは
仏蘭西の文豪ヴィクトル・ユーゴーが
レ・ミゼラブルの売れ行きを問うた
「?」→「!」
という世界一短い手紙ぐらいなものである。
そして残念ながら
吾輩の読者には、一片の桜の花びらのみの小説を
理解できるものなどおらん。
吾輩は溜息をついた。
そして愚妻の差し出した湯飲みの中味を
一口含んだ。
「!これは桜の甘酒か」
「ええ、そうですよ。
古い友達から送られてきましてね。
美味しいでしょう」
「う、うむ。桜のほのかに香る甘酒というのも
風情があっていいな」
ふぅ。こういうのを飲むと
大正ロマンの淡い恋愛小説など
書きたいものである。
だが。
「あなた。また編集さんから
無理難題をおっしゃられているのでしょう?」
「うむ。なんでも互いに
遠く離れた病院に入院している
二人の老人が、
スマホで連絡し合って
じわじわと互いに相手を追い詰め合って行き
最後は・・・という
風情も何も無い真っ白で無機質な病室で
繰り広げられる、
この原稿用紙のような
世界を書けと言われているのだ」
「まぁ、恐ろしい。
あなた、ちょっと散歩にでませんこと。
そんなことを考えていたら
頭がまいってしまいましてよ」
「・・・それもそうだな。
少し休憩しようか」
「ええ、街の家々に植わっている
花をみながら喫茶店にでも
まいりましょう。
たまには原稿用紙を
そこで書いてみるのも
気分転換になりましてよ」
「お前にしては珍しいな。
なんか買いたい物があるのではないか」
「そうですね。それじゃぁ帰りに花屋さんに寄って
花を一輪求めましょうか」
「む。それもいいな」
その花は、その後吾輩の机の上を
彩ることになるのを
吾輩はその時知らなかった。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
サイドバーにある、お好きなアイコンを
ぽちりと押して下されば、
望外な喜びです。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m