180831奥様は魔女と夏とひまわり:ss
「暑い~だけどどこか行きたい~」
奥様がリビングでクッションを抱えながら
ぶつぶつ言っている。
「だけどお前、この部屋から出たく
ないんだろ?もう少ししたら涼しくなるから
我慢したらどうだ」
「そんなもっともな意見を聞きたいんじゃないのよぉ」
足をじたばたしながら奥様が反論する。
ピンポポポーン
インターホンが鳴る。
「おい、あの鳴り方は魔女の宅配便だろ、
さっさと出てやれよ」
俺が促すとしぶしぶ立ち上がる奥様。
そして、小包を持ってリビングへ戻る。
「何を買ったんだ?」
俺が尋ねると、
「うん、マジック向日葵の花キットなの。
床に並べてくれるかな、迷路みたいに」
奥様に言われて、地面から生えて咲いている
形の向日葵のフィギュアを並べる。
俺の手位の高さで、20本程だからあっという間に
終わる。
そして、奥様が向日葵のフィギュアの迷路の
スタート地点にドアのフィギュアを置く。
すると、向日葵のフィギュアがリビングを
埋め尽くした。
「ふふふ、これが部屋にいながら向日葵畑を
行った気分になれるキットなの。
ドアを開けると小さくなるから、迷路内を探検よ」
「おう、なんか楽しそうだな、行こうぜ」
こうして俺達は小さくなって、ドアをくぐった。
「うわぁ、本物の向日葵畑みたいだな」
「そりゃそうよ。魔女界で作られた本物の向日葵を、
通常はフィギュアサイズにして、
小さくなって中に入ると本物を実感できるように
加工されているのよ」
「ふーん、魔女界も色々商品開発してるのな」
そう言って、俺は近くの向日葵を一本トンと
押してみた。
すると、向日葵が傾いて隣の向日葵に当る。
そして、その四方隣の向日葵が次々と倒れる。
気付いたら、全ての向日葵が倒れていた。
「・・・ドミノ倒し」
奥様がボツリと言う。
俺達は黙ってドアをくぐり元のサイズに戻った。
そしてー
「暑い~だけどどこか行きたい~」
最初に戻る。
俺は少しでも涼しい移動で
奥様が退屈しない景色のいいバスツアーを
検索していた。
やっぱり本物にはかなわないようだ。
了