210827-4「ガレッジセール」

210827-4「ガレッジセール」


　ガレージセールでお鍋を買った。
独り暮らしの私には
ちょっと大きいサイズなの。
それでもピカピカ磨かれて
キラリと光る何かがあった。
気分は上々何を作ろうかなと
思ってアパートの部屋のドアを開けようとすると
隣の部屋の男性が部屋から出てきた。

「こんにちは」

彼はにっこり笑って挨拶をする。

「こ、こんにちは」

私はちょっと声がうわずってしまった。
だって前から彼が素敵だなと思っていたから
ちょっとふくよかだけど
髪はさらさらだし笑顔がいいし
何しろ優しいのだ！

家に帰る途中で自転車の車輪がパンクして
たまたま通りがかった彼が
自転車を持って自転車屋さんまで
運んでくれたのだ。
元彼なんて、スマホをポチポチしていて
コンビニで買った物一つでも
私に持たせたっけ。

　そんな事を思い出しながら、
私はドギマギしながら部屋へと入った。
だけど彼との接点が挨拶以外何もない。
あ、でも自転車のタイヤがパンクした時
他愛のない会話をしているとき
お汁粉が好きだと言ってたわ。

・・・作ってみようかな、お汁粉。


　するとその夜の晩に
台所でごそごそ音がする。
すわどろぼうかと突っ張り棒を
手に持ってそっと寝室の戸の隙間から
台所を見ていると
ガレージセールで買った鍋が
ぐつぐつぐつぐつ言っている
小豆の匂いがほわんと漂ってきて
鍋が一人？で小豆を茹でているのに
びっくりするのを忘れたわ　そう　忘れたわ。

私は鍋に近づいて聞いてみた。

「あなた何で小豆を茹でてるの」

「それがあたしの仕事だからさ
あんた明日餅をいれて
隣のサラリーマンに
お汁粉をおすそ分けしな
でないとあんたを餅にしちまうよ」

　私はそのまま意識を失った
朝、起きると寝室にいた。
じゃぁあれは幻覚？と思って
台所へ行くとお汁粉が出来ていた。
私は餅になりたくなかったので
お汁粉の中に焼いた餅を入れて
隣の男性にお裾分けした。

　男性はすごく喜んでくれた。
恐縮しながら全部食べてくれた。
それから話が弾んであたしと彼は
付き合うようになった。

　するといつの間にかあのお鍋は
いなくなっていた。
「お鍋のキューピットってところかしら」
私はつぶやいた。

　私は新しく買った”普通”のお鍋で
お汁粉を作っている。
でも彼は時々、最初の味と違うねと首を傾げている。
私は苦笑するしかなかった。
了


善き事がありますように。

お読みいただきありがとうございました。

宇宙生物ぷりちーぴｍ（＿＿）ｍ

210813-2白い巻貝

210813-2白い巻貝


八月の海

誰もいない砂浜で

私は白い巻貝の殻を拾った

白い巻貝の殻は

体にアンテナのような角を付けていて

入り口に耳を寄せると

音がする

そう、オリンピックの音がする

選手たちの声なき闘志

歓喜の声に嗚咽の声

そうしているはずのない観客の

無数の大歓声が響き渡る

そう、白い巻貝の殻は

私をあの大歓声の真中へと

誘う

その時。

ラジオの音がした

ああ、彼も来ていたのだ

誰もいない砂浜に座って

波の音に逆らうラジオの電波は

オリンピックの余韻をつたえていた

私は彼に近づく

彼は眺めていた海から私へ視線を映す

そして側に置いてあったバスケットボールを

拾い上げてくるくる回す

2021年8月24日火曜日

パラリンピックの号砲が鳴る

白い巻貝の殻は何を私に伝えるだろう

私と彼は黙って砂浜からスロープを伝い

彼は車椅子に座った

彼はあの歓声をどのように聴くのだろう

私はそっと彼の耳に白い巻貝の殻をあてた

彼は不思議そうに私の顔を見て笑った

了

善き事がありますように。

お読みいただきありがとうございました。

宇宙生物ぷりちーぴｍ（＿＿）ｍ