210924「コンクリートシティ」
210924「コンクリートシティ」
東京をコンクリートシティと行ったのは誰だろう。
私、睦 紫(むつみ ゆかり)は
そのコンクリートシティで働いている。
事務員として。
ある時、社長が屋上で蜜蜂を飼うと
言い出した。
きっかけは同じ課の紀原君。
環境問題に取り組む会社として
消費者や株主にPRするよう社長を説得したようだ。
その目はキラキラして眩しかった。
紀原君は私によく話しかける。
故郷は青森でりんご農家だという。
いずれ家業を継ぐために、経営の勉強の為に
うちの会社に入ったそうだ。
彼は嬉しそうに夢を語る。
その夢は私に関係ないはずなのに
徐々に私に浸透し始める。
「都会育ちの私がりんごを作れるかな」
ある日ぽつりと紀原君に言ってみた。
ただの話のネタだった。
「できるよ。そうだ、屋上に行こう。
蜂の巣を見ようよ」
そうしてあれよあれよと言う間に
屋上に連れられて行った。
紀原君は私の手を握りしめて階段を登る。
エレベーターでいけばいいのに
何故階段?。
確かにエレベータは―最上階から
更に階段を登らないと行けないけれど。
屋上に着いた時には息が上がっていた。
紀原君は息一つ切らしていない。
お水を一杯もらって、蜂除けの防護服をきた。
そして箱の中の板に作られた蜂の巣を見た。
蜂たちは甲斐甲斐しく巣の面倒を見ていた。
「不思議ね、このコンクリートシティで
蜂達が蜜を集める場所があるのね」
すると紀原君が、
「そうだね。この近くに公園があるし
マンションでガーデニングをする人達が
いるしね」
「そうなのね。私、いつも灰色の建物ばかり
見ていた。そうよね。人は灰色の世界だけで
いたいわけじゃないものね」
私達は蜂の巣から離れて防護服を脱いで
屋上の蜂蜜を作る作業小屋にいた。
そして、そこで蜂の巣をごちそうになったり
蜂蜜を採る作業を見せてもらった。
そして帰ろうとしたとき紀原君が私を呼び止めた。
「これ、うちの田舎で作ったリンゴなんだ。
よかったら貰ってくれない」
私はお礼を言ってリンゴを受け取った。
リンゴは袋の中に入っていた。
「開けてもいいかな?」
紀原君がうなずく。
そのリンゴには、色のついていない部分があった。
それは文字になっていた。
そして『好きです』
と書いてあった。
私は紀原君、ううん紀原公利君をじっと見つめて
リンゴをぎゅっと抱きしめて
コクンとうなずいた。
紀原君は私をそっと抱きしめた。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m
東京をコンクリートシティと行ったのは誰だろう。
私、睦 紫(むつみ ゆかり)は
そのコンクリートシティで働いている。
事務員として。
ある時、社長が屋上で蜜蜂を飼うと
言い出した。
きっかけは同じ課の紀原君。
環境問題に取り組む会社として
消費者や株主にPRするよう社長を説得したようだ。
その目はキラキラして眩しかった。
紀原君は私によく話しかける。
故郷は青森でりんご農家だという。
いずれ家業を継ぐために、経営の勉強の為に
うちの会社に入ったそうだ。
彼は嬉しそうに夢を語る。
その夢は私に関係ないはずなのに
徐々に私に浸透し始める。
「都会育ちの私がりんごを作れるかな」
ある日ぽつりと紀原君に言ってみた。
ただの話のネタだった。
「できるよ。そうだ、屋上に行こう。
蜂の巣を見ようよ」
そうしてあれよあれよと言う間に
屋上に連れられて行った。
紀原君は私の手を握りしめて階段を登る。
エレベーターでいけばいいのに
何故階段?。
確かにエレベータは―最上階から
更に階段を登らないと行けないけれど。
屋上に着いた時には息が上がっていた。
紀原君は息一つ切らしていない。
お水を一杯もらって、蜂除けの防護服をきた。
そして箱の中の板に作られた蜂の巣を見た。
蜂たちは甲斐甲斐しく巣の面倒を見ていた。
「不思議ね、このコンクリートシティで
蜂達が蜜を集める場所があるのね」
すると紀原君が、
「そうだね。この近くに公園があるし
マンションでガーデニングをする人達が
いるしね」
「そうなのね。私、いつも灰色の建物ばかり
見ていた。そうよね。人は灰色の世界だけで
いたいわけじゃないものね」
私達は蜂の巣から離れて防護服を脱いで
屋上の蜂蜜を作る作業小屋にいた。
そして、そこで蜂の巣をごちそうになったり
蜂蜜を採る作業を見せてもらった。
そして帰ろうとしたとき紀原君が私を呼び止めた。
「これ、うちの田舎で作ったリンゴなんだ。
よかったら貰ってくれない」
私はお礼を言ってリンゴを受け取った。
リンゴは袋の中に入っていた。
「開けてもいいかな?」
紀原君がうなずく。
そのリンゴには、色のついていない部分があった。
それは文字になっていた。
そして『好きです』
と書いてあった。
私は紀原君、ううん紀原公利君をじっと見つめて
リンゴをぎゅっと抱きしめて
コクンとうなずいた。
紀原君は私をそっと抱きしめた。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m