ss230127 屋台
ss230127 屋台 🍢
「らっしゃい!!」
深夜。
俺はおでんの屋台をしている。
ここはビジネス街の横にある飲み屋街で
残業で一息ついたビジネスマンが
飢えた胃袋と心を満たすためにやってくる。
今は丁度お客がはけたところだった。
そこにやってきたのが
残業疲れの二十代半ばのビジネスマンだった。
(珍しいな。大抵上司に連れられてやってくるのだが)
「あのう、この屋台。
おでんの汁で作ったラーメンが
裏メニューにあるって聞いたんですが」
「ハハ、裏メニューっていうほどじゃないですが
ありますよ、ラーメン」
「じゃぁ、それ一つ下さい。
あと熱燗あれば一本お願いします」
「ありがとうございます。
今日は一段と冷えますからね。
車は運転しませんね。
ノンアルコールビールもありますよ」
「あ、大丈夫です」
「そうですか。それじゃぁどうぞ」
話している間にパパと熱燗を出し
ラーメンに玉子とチャーシューに
短冊程の大きさの海苔をのせて
「はいよ、ラーメン一丁」
と威勢よくお客に出した。
「うわぁ腹減ってたんだ。
いただきます。うん、ほのかにおでんの匂いが
するけれどそれが絶妙な舌触りとなって
麺と絡まりうまい!」
俺は苦笑する。
「お客さん、お褒めいただいて
嬉しいんですがね。
冷める前に食べて下さいよ」
すると、お客の心の何かが冷えたらしい。
箸を置いて
「冷める前。
そうですよね、長年つきあった彼女との間も
居心地が良すぎて、つい甘えていたんです」
「もしかして結婚を迫られている?」
「言葉では言わないんですが、最近、
態度の端々にでているんですよ」
「そうですかい、それでどうしたいんですか」
お客は食べ終えたラーメンのどんぶりをみつめて
「別れたくありません。ですから結婚します」
「ほう、それは良かった。
じゃあ善は急げだ。早く帰ってやんな」
「そうですね。それでお願いがあります。
『お義父さん』、彼女との結婚を認めてください」
「?お義父さん、て俺のことかい」
「そうです。あなたは彼女が幼い頃家を出ましたね。
ほら、スマホのこの家族写真は彼女のですが
見覚えはありませんか」
「た、確かにその写真に写っているのは
俺の家族だが」
「はい、実は俺。刑事なんです。
探しましたよお義父さん。
色々職を点々とされてやっとつきとめたんです。
認めていただけますよね、娘さんを僕に下さい」
「ちょ、ちょっとその警察手帳をしまってくれ。
確かに俺は職を点々としたが悪い事をしちゃいねぇよ。
それに俺のことなんかとっくに調べ上げたんだろ。
分かったよ。娘と長年つきあっていたんだろ。
大事にしてくれ」
「だって、入っておいで」
そう言って入ってきたのは
一人の若い女だった。
それは確かに幼いころ別れた娘の面影がある
女だった。
「お父さん・・・」
「お、おう」
女は、いや娘は手を伸ばしてきた。
俺はその手を握った。
屋台の外では、ひらひらと雪が舞っていた。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
サイドバーにある、お好きなアイコンを
ぽちりと押して下さり、
宇宙雑貨ぷりちーぴなど
のぞいて頂ければ望外な喜びです。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m
「らっしゃい!!」
深夜。
俺はおでんの屋台をしている。
ここはビジネス街の横にある飲み屋街で
残業で一息ついたビジネスマンが
飢えた胃袋と心を満たすためにやってくる。
今は丁度お客がはけたところだった。
そこにやってきたのが
残業疲れの二十代半ばのビジネスマンだった。
(珍しいな。大抵上司に連れられてやってくるのだが)
「あのう、この屋台。
おでんの汁で作ったラーメンが
裏メニューにあるって聞いたんですが」
「ハハ、裏メニューっていうほどじゃないですが
ありますよ、ラーメン」
「じゃぁ、それ一つ下さい。
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「ありがとうございます。
今日は一段と冷えますからね。
車は運転しませんね。
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「あ、大丈夫です」
「そうですか。それじゃぁどうぞ」
話している間にパパと熱燗を出し
ラーメンに玉子とチャーシューに
短冊程の大きさの海苔をのせて
「はいよ、ラーメン一丁」
と威勢よくお客に出した。
「うわぁ腹減ってたんだ。
いただきます。うん、ほのかにおでんの匂いが
するけれどそれが絶妙な舌触りとなって
麺と絡まりうまい!」
俺は苦笑する。
「お客さん、お褒めいただいて
嬉しいんですがね。
冷める前に食べて下さいよ」
すると、お客の心の何かが冷えたらしい。
箸を置いて
「冷める前。
そうですよね、長年つきあった彼女との間も
居心地が良すぎて、つい甘えていたんです」
「もしかして結婚を迫られている?」
「言葉では言わないんですが、最近、
態度の端々にでているんですよ」
「そうですかい、それでどうしたいんですか」
お客は食べ終えたラーメンのどんぶりをみつめて
「別れたくありません。ですから結婚します」
「ほう、それは良かった。
じゃあ善は急げだ。早く帰ってやんな」
「そうですね。それでお願いがあります。
『お義父さん』、彼女との結婚を認めてください」
「?お義父さん、て俺のことかい」
「そうです。あなたは彼女が幼い頃家を出ましたね。
ほら、スマホのこの家族写真は彼女のですが
見覚えはありませんか」
「た、確かにその写真に写っているのは
俺の家族だが」
「はい、実は俺。刑事なんです。
探しましたよお義父さん。
色々職を点々とされてやっとつきとめたんです。
認めていただけますよね、娘さんを僕に下さい」
「ちょ、ちょっとその警察手帳をしまってくれ。
確かに俺は職を点々としたが悪い事をしちゃいねぇよ。
それに俺のことなんかとっくに調べ上げたんだろ。
分かったよ。娘と長年つきあっていたんだろ。
大事にしてくれ」
「だって、入っておいで」
そう言って入ってきたのは
一人の若い女だった。
それは確かに幼いころ別れた娘の面影がある
女だった。
「お父さん・・・」
「お、おう」
女は、いや娘は手を伸ばしてきた。
俺はその手を握った。
屋台の外では、ひらひらと雪が舞っていた。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
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宇宙生物ぷりちーぴm(__)m