ss200925レベル1のヘルゲート「異世界に宇宙人ありですか?」
ss200925レベル1のヘルゲート「異世界に宇宙人ありですか?」:
「紅葉がきれいだなぁ」
俺は出前の配達の愛自転車を
漕ぎながらつぶやいた。
あれだけの酷暑を忘れるほど
秋は涼しさを運んでくる。
愛自転車のペダルを踏むのも
心なしか弾んでいるような気がする。
俺は食堂にたどりつく。
自転車を片づけ店に入り、
「ただいま戻りました」と店長に声をかける。
「おう、ご苦労さん。賄い飯食べろよ」
と店長がぼそりと言う。
その声に応えながらそっとつぶやく。
「いつになったら俺の世界に帰れるんだろ、はぁ」
あ、俺、唯の出前のバイトだけど、
今いる世界、地球じゃなくて異世界ナンデス。
いやぁ、最初は困ったよ?
何しろここはどこ?家はどこ?腹減ったどうしよう
と悩んでいたら、
この世界では異世界人って結構出現するらしく、
対応ばっちりお役所仕事サクサク進んで
家も職ももらえて、一応元の地球の移転時間に
合わせて戻れるよう確認してくれるという
親切ぶりだった。
で、紹介された職が住み込みの食堂の出前持ち。
この世界って、魔法があるけれど
一般人はそんな大して使えない世界。
まだ馬車が活躍している生活水準なのに、
何故か自転車はあった。
何故だ?文明の発展手順が違うくね?
と思ったけれど、どうやら
俺より以前に異世界転移しちゃった人が
魔術師と協力して根性で作り上げたらしい。
でも、庶民にとってはちょっと手を出すのは
ためらう値段なのに、
何故か店長が持っていて、
俺に出前の時に使えと貸してくれた。
ただし、出前の中身がこぼれない装置は
開発してくれてなかったので、
俺は店長のシゴキじゃなくて猛特訓で
中身をこぼす事無くお客さまに届ける
事ができるようになった。
「で、店長。次の出前先はどこですか?」
おれは賄いの飯を食べ終えて店長に尋ねた。
「おう、いつもの『ヘルゲート』だ」
俺の身体に緊張が走る。
「王立魔術学院ですね」
「そうだ。そこへ出前だ」
ー王立魔術学院。そこは偏屈魔術師の集まりだった。
本来、国の一機関に出前を届けるのに
身構える必要はない。
だが、そこは偏屈魔術師の巣窟。
自分の魔術を使いたくてたまらない連中の集まりだ。
裏門?怪しげな魔術道具が所狭しと置かれていて
いつ何が発動するかわからない道を通れるのは
魔術に精通する業者でないと危なくて仕方がない。
それでもこの国ではレベル1の穴場と言われている。
正門は「休戦協定」というやつが発動しないと
一般人は通れない。
それなしで唯一出前を届けられるのがこの俺だ。
「アイサー、出前はこれですね。
届けてきます」
「おう、気を付けてな、と
その前にこの装備を持っていけ」
そう言って店長が出したのは
野球ボールだった。
そう、俺の世界の野球ボール・・・
「諜報部員からの連絡だ。
今回の敵にはこれが役に立つらしい。
取り出しやすい所にしまっておけ」
そう店長は言ってお玉を振って
行けと合図する。
俺は仕方がないので前かごの
空いてる所に野球ボールを押し込んだ。
そして俺は愛自転車にまたがり
出前へと疾走した。
そうして王立魔術学院の正面ゲートに
到着した。
「ふふふ、待っていたわよデマエ二スト」
「・・・」
俺はどうリアクションしていいのか分からなかった。
王立魔術学院の正面ゲートから正面玄関の間の道に、
宇宙人スーツを着た三人の魔術師(多分)が待ち受けていた。
体型と口調から女性らしいが・・・男だったら良かったのに。
いや、そッちの趣味は無いが速攻叩きのめして
出前を終了させられるのになぁと遠い目をする俺。
俺は深いため息をつくと、
「念のため聞くけどその宇宙人スーツは何で着ているのでしょうか」
すると、真ん中のスーツを着た女(多分)
目の前でなんだか分からんが可愛いポーズらしきものをとって
「うふふ、教えてあげるわ。
このスーツはウチュウジンスーツとやらではなくて、
高名な異世界人の勇者様がお作りになった
プロテクタースーツなのよ。
私達は、その成績の良さから、このスーツを学院から
賜ったの。名付けて『明るい三連星』よ❤」
そうして両脇の二人と共にキメポーズをした。
俺はその場で崩れ落ちそうになった。
その高名な異世界人勇者様は某番組のファンに違いない。
何考えてやがんだ。異世界人の知識が無い事をいいことに
変な物作りやがって。
しかも宇宙人スーツ関係ないだろ。ああ、そう言えば
もうすぐハロウィンだからその関係か。
いや、それにしてもこの場合黒いスーツを提供すべきで
いや、恰好からして泥棒と間違われる黒いスーツでは
治安上問題があると踏んで宇宙人スーツにしたのかもしれない。
「ちょっと、デマエ二スト!何ぼさっとしているのよ。
さぁ、私たちと手合せ願うわ。そしてその出前を寄こしなさい!」
俺が思いっきり自分の世界に入り込んでいると、
宇宙人スーツ(もういいや)を着た
『明るい三連星』(これもいいや)
三人組のセンターが(多分リーダー)
俺に指をつきつけてそう言った。
いかんいかん、訳のわからん高名な異世界人勇者の
おかげで本来の出前の任務を忘れるところだった。
俺は、気を取り直して愛自転車のペダルを踏み込もうとした。
すると、三人組が突然光り出して空中へと浮き上がった。
そしてセンターを中心に両脇二人がくるくる回り始めて
光の渦ができたかと思うと
三人が声を揃えて「レイストリームアタック」と叫んだ。
俺はとっさに、愛自転車をバックさせた。
俺がさっきまでいた場所には土埃を上げて
巨大な穴が開いていた。
俺はくっと歯ぎしりした。
負けん、負けんぞ俺は・・・て
俺、ただの出前持ちじゃん。
あぶねぇ。思わずのせられるところだった。
そんな事を考えているうちにも
三人組はセンターを中心に両脇の二人が
くるくる回っている。
俺は店長からもらった野球ボールを取り出すと、
今まさに呪文を唱えようとしていた彼女達に
投げつけた。
すると野球ボールが割れて中から蜘蛛の巣状の
糸が彼女たちが放った光を包み込むように
彼女たちを拘束した。
「きゃぁ」
という悲鳴と共にどさりと三人がどさりと地面に落ちる。
「ん?」
そこにはピンク・金髪・青色の髪の毛をした魔女っ子達がいた。
「あ、宇宙人スーツ破けてる」
そうなのだ。宇宙人スーツはどうも細切れになって
破け散ったらしい。
そして全男性諸君には惜しい事に、
彼女たちは、いわゆるリボンとレースふりふりの
可愛い魔女っ子衣装を無事にきていたのだ。
俺にとっては幸いなことに。
呆然としている彼女たちの脇を通って、
俺は王立魔術学院の正面玄関のドアを叩く。
「ちわーす。出前届けにきましたぁ」
すると管理人さんが出てきていつもご苦労様と
労われて、代金をもらい空の容器を回収した。
そして、俺は愛自転車を押しながら
正面ゲートへ向かった。
途中まだ呆然としている魔女っ子達(以前戦った事がある)に
「あのー。大丈夫ですかぁ」
と小声で声をかけて通り過ぎようとすると、
ガシッと右足首を握られた。
「ヒッ」
恐ろしさの余り俺は悲鳴をあげる。
それはピンクの髪の魔女っ子アイドル自称センターだった。
「よ~く~も聖なるプロテクタースーツを
破いてくれたわねぇ。黒猫に代わってお仕置きよっ」
そう自称センターが言い放つと、
他二人もキッと俺を睨んで呪文の詠唱に入った。
俺は、必死で自称センターの手を振り払い、
攻撃魔法が飛んでくるのを避けながら
正面ゲートへと脱出した。
やっと安全なところまでくるとホッとして
「いいじゃん、下、ちゃんと着こんでいたんだから。
それにそもそも向こうが攻撃してきたんだから
自己責任だろーが」
とつぶやくのだった。
「ちょっとぉ。出前持ちのお兄ちゃん、
何ぶつくさいってんの」
脇をみるとそこにいたのは焼き鳥屋の娘だった。
「ほら、大の男がそんなめそめそしてんじゃないわよ。
焼き鳥おごってあげるから元気だしな」
こういう時って人の親切が身に染みるなって
思いながら俺は礼を言って店へと戻るのだった。
「出前持ちのお兄ちゃん、恋煩いかな」
そんな事を焼き鳥屋の娘が考えているのも知らずに。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m
「紅葉がきれいだなぁ」
俺は出前の配達の愛自転車を
漕ぎながらつぶやいた。
あれだけの酷暑を忘れるほど
秋は涼しさを運んでくる。
愛自転車のペダルを踏むのも
心なしか弾んでいるような気がする。
俺は食堂にたどりつく。
自転車を片づけ店に入り、
「ただいま戻りました」と店長に声をかける。
「おう、ご苦労さん。賄い飯食べろよ」
と店長がぼそりと言う。
その声に応えながらそっとつぶやく。
「いつになったら俺の世界に帰れるんだろ、はぁ」
あ、俺、唯の出前のバイトだけど、
今いる世界、地球じゃなくて異世界ナンデス。
いやぁ、最初は困ったよ?
何しろここはどこ?家はどこ?腹減ったどうしよう
と悩んでいたら、
この世界では異世界人って結構出現するらしく、
対応ばっちりお役所仕事サクサク進んで
家も職ももらえて、一応元の地球の移転時間に
合わせて戻れるよう確認してくれるという
親切ぶりだった。
で、紹介された職が住み込みの食堂の出前持ち。
この世界って、魔法があるけれど
一般人はそんな大して使えない世界。
まだ馬車が活躍している生活水準なのに、
何故か自転車はあった。
何故だ?文明の発展手順が違うくね?
と思ったけれど、どうやら
俺より以前に異世界転移しちゃった人が
魔術師と協力して根性で作り上げたらしい。
でも、庶民にとってはちょっと手を出すのは
ためらう値段なのに、
何故か店長が持っていて、
俺に出前の時に使えと貸してくれた。
ただし、出前の中身がこぼれない装置は
開発してくれてなかったので、
俺は店長のシゴキじゃなくて猛特訓で
中身をこぼす事無くお客さまに届ける
事ができるようになった。
「で、店長。次の出前先はどこですか?」
おれは賄いの飯を食べ終えて店長に尋ねた。
「おう、いつもの『ヘルゲート』だ」
俺の身体に緊張が走る。
「王立魔術学院ですね」
「そうだ。そこへ出前だ」
ー王立魔術学院。そこは偏屈魔術師の集まりだった。
本来、国の一機関に出前を届けるのに
身構える必要はない。
だが、そこは偏屈魔術師の巣窟。
自分の魔術を使いたくてたまらない連中の集まりだ。
裏門?怪しげな魔術道具が所狭しと置かれていて
いつ何が発動するかわからない道を通れるのは
魔術に精通する業者でないと危なくて仕方がない。
それでもこの国ではレベル1の穴場と言われている。
正門は「休戦協定」というやつが発動しないと
一般人は通れない。
それなしで唯一出前を届けられるのがこの俺だ。
「アイサー、出前はこれですね。
届けてきます」
「おう、気を付けてな、と
その前にこの装備を持っていけ」
そう言って店長が出したのは
野球ボールだった。
そう、俺の世界の野球ボール・・・
「諜報部員からの連絡だ。
今回の敵にはこれが役に立つらしい。
取り出しやすい所にしまっておけ」
そう店長は言ってお玉を振って
行けと合図する。
俺は仕方がないので前かごの
空いてる所に野球ボールを押し込んだ。
そして俺は愛自転車にまたがり
出前へと疾走した。
そうして王立魔術学院の正面ゲートに
到着した。
「ふふふ、待っていたわよデマエ二スト」
「・・・」
俺はどうリアクションしていいのか分からなかった。
王立魔術学院の正面ゲートから正面玄関の間の道に、
宇宙人スーツを着た三人の魔術師(多分)が待ち受けていた。
体型と口調から女性らしいが・・・男だったら良かったのに。
いや、そッちの趣味は無いが速攻叩きのめして
出前を終了させられるのになぁと遠い目をする俺。
俺は深いため息をつくと、
「念のため聞くけどその宇宙人スーツは何で着ているのでしょうか」
すると、真ん中のスーツを着た女(多分)
目の前でなんだか分からんが可愛いポーズらしきものをとって
「うふふ、教えてあげるわ。
このスーツはウチュウジンスーツとやらではなくて、
高名な異世界人の勇者様がお作りになった
プロテクタースーツなのよ。
私達は、その成績の良さから、このスーツを学院から
賜ったの。名付けて『明るい三連星』よ❤」
そうして両脇の二人と共にキメポーズをした。
俺はその場で崩れ落ちそうになった。
その高名な異世界人勇者様は某番組のファンに違いない。
何考えてやがんだ。異世界人の知識が無い事をいいことに
変な物作りやがって。
しかも宇宙人スーツ関係ないだろ。ああ、そう言えば
もうすぐハロウィンだからその関係か。
いや、それにしてもこの場合黒いスーツを提供すべきで
いや、恰好からして泥棒と間違われる黒いスーツでは
治安上問題があると踏んで宇宙人スーツにしたのかもしれない。
「ちょっと、デマエ二スト!何ぼさっとしているのよ。
さぁ、私たちと手合せ願うわ。そしてその出前を寄こしなさい!」
俺が思いっきり自分の世界に入り込んでいると、
宇宙人スーツ(もういいや)を着た
『明るい三連星』(これもいいや)
三人組のセンターが(多分リーダー)
俺に指をつきつけてそう言った。
いかんいかん、訳のわからん高名な異世界人勇者の
おかげで本来の出前の任務を忘れるところだった。
俺は、気を取り直して愛自転車のペダルを踏み込もうとした。
すると、三人組が突然光り出して空中へと浮き上がった。
そしてセンターを中心に両脇二人がくるくる回り始めて
光の渦ができたかと思うと
三人が声を揃えて「レイストリームアタック」と叫んだ。
俺はとっさに、愛自転車をバックさせた。
俺がさっきまでいた場所には土埃を上げて
巨大な穴が開いていた。
俺はくっと歯ぎしりした。
負けん、負けんぞ俺は・・・て
俺、ただの出前持ちじゃん。
あぶねぇ。思わずのせられるところだった。
そんな事を考えているうちにも
三人組はセンターを中心に両脇の二人が
くるくる回っている。
俺は店長からもらった野球ボールを取り出すと、
今まさに呪文を唱えようとしていた彼女達に
投げつけた。
すると野球ボールが割れて中から蜘蛛の巣状の
糸が彼女たちが放った光を包み込むように
彼女たちを拘束した。
「きゃぁ」
という悲鳴と共にどさりと三人がどさりと地面に落ちる。
「ん?」
そこにはピンク・金髪・青色の髪の毛をした魔女っ子達がいた。
「あ、宇宙人スーツ破けてる」
そうなのだ。宇宙人スーツはどうも細切れになって
破け散ったらしい。
そして全男性諸君には惜しい事に、
彼女たちは、いわゆるリボンとレースふりふりの
可愛い魔女っ子衣装を無事にきていたのだ。
俺にとっては幸いなことに。
呆然としている彼女たちの脇を通って、
俺は王立魔術学院の正面玄関のドアを叩く。
「ちわーす。出前届けにきましたぁ」
すると管理人さんが出てきていつもご苦労様と
労われて、代金をもらい空の容器を回収した。
そして、俺は愛自転車を押しながら
正面ゲートへ向かった。
途中まだ呆然としている魔女っ子達(以前戦った事がある)に
「あのー。大丈夫ですかぁ」
と小声で声をかけて通り過ぎようとすると、
ガシッと右足首を握られた。
「ヒッ」
恐ろしさの余り俺は悲鳴をあげる。
それはピンクの髪の魔女っ子アイドル自称センターだった。
「よ~く~も聖なるプロテクタースーツを
破いてくれたわねぇ。黒猫に代わってお仕置きよっ」
そう自称センターが言い放つと、
他二人もキッと俺を睨んで呪文の詠唱に入った。
俺は、必死で自称センターの手を振り払い、
攻撃魔法が飛んでくるのを避けながら
正面ゲートへと脱出した。
やっと安全なところまでくるとホッとして
「いいじゃん、下、ちゃんと着こんでいたんだから。
それにそもそも向こうが攻撃してきたんだから
自己責任だろーが」
とつぶやくのだった。
「ちょっとぉ。出前持ちのお兄ちゃん、
何ぶつくさいってんの」
脇をみるとそこにいたのは焼き鳥屋の娘だった。
「ほら、大の男がそんなめそめそしてんじゃないわよ。
焼き鳥おごってあげるから元気だしな」
こういう時って人の親切が身に染みるなって
思いながら俺は礼を言って店へと戻るのだった。
「出前持ちのお兄ちゃん、恋煩いかな」
そんな事を焼き鳥屋の娘が考えているのも知らずに。
了
善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
宇宙生物ぷりちーぴm(__)m
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