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SS221209:ブラック珈琲

SS221209:ブラック珈琲   ☕


「はぁ」

と私、若宮 澄香は
溜息を含んだ白い息を吐き出した。
そしてその声が周りに聞こえたかと
そうっと辺りを見渡す。

ここは私の住む最寄り駅に隣接した
繁華街だ。
人々が師走という言葉の掛け声に
のせられるように足早に歩いている。

仕事帰りの人がほとんどだし、
お店の人達も忙しい時間帯のせいか
誰も変な顔をしたりしていなかった。

私はそのことにほっとすると共に
とても寂しく感じた。
ここは大勢の人間がいるのに
孤独を感じたからだ。

だからと言って大声をあげて泣いたら
変な人である。
一歩間違うとスマホに撮られる可能性がある。
私はぐっとこらえた。

(これも全て甲矢が悪いのよ)

大勢の中の独りの人間らしく
能面のような顔を維持しながら
心の中で悪態をついた。
あ、マスクつけているから
多少むくれてもばれないよね。
て、今更ながら気付いた。

渡辺 甲矢は私の恋人だ。
少し年上で同じ会社に勤めている。
私が入社した時に
業務を教えてくれて、
その流れで付き合い始めたという
よくある出会いと恋愛。

だけど私も数年経って後輩もできて
彼に頼らなくても仕事をこなせるようになった。
でも、彼にとってはいつまでも新入社員の澄香さんらしい。
私は面白くなかった。

そんな時に失敗をした。
取引先にも迷惑をかけ、その対応をしてくれたのが
甲矢だった。

そして全ての問題が解決した時
彼は私に反省をさせ今後二度と失敗しないよう
解決策をアドバイスしてくれた。
その後一言

「早く珈琲をブラックで飲めるようになれよ」

と言ったのだ。

(それって仕事と何の関係があるっていうの!
ようするにお子ちゃまといいたいのかぁ)

私はコーヒーが苦手だ。
もし飲むとするとミルクをたっぷりいれる。
すると甲矢が、

「それじゃぁ珈琲牛乳だな」

とよくからかった。
むぅ。
私はマスクの中でむくれた。
そしてコンビニがあるのに気付いた。
「・・・・・」
私は迷わずコンビニに入った。

入店のチャイムが鳴る。
そしてレジのカウンターの隅に
コーヒーマシーンがあるのを確認する。
レジでカップを購入して
迷わずホットコーヒーを淹れさせてやった。
もちろん、ミルクの入ったコーヒーフレッシュは
手に取らなかった。

「ありがとうございました」

コンビニの店員さんの挨拶を背中で聞きながら
外へ出る。
コンビニのホットコーヒーは
冬の寒さに負けないような熱さだった。

(ふん!私だってブラックでコーヒーを
飲めるんだからねっ)

そう思いながら飲み口を開けて飲もうとしたところ
私の右頬に温かい物が触れる。
驚いてそれを見ると、ホットカフェオレの缶。
缶を持った先をたどるとそこには

「甲矢!」

「澄香、なにやってんの。
ほら、こっち飲んで珈琲よこせ」

「な、なによ。私だってブラックで飲めるわよ。
そうよコーヒーぐらい」

「ごめん、言い過ぎた。あの時、俺も
仕事が溜まっていてカリカリしていたんだ。
それで澄香に嫌味を言ってしまったんだ」

「え、そうだったの?
甲矢そんなそぶり一つも見せなかったじゃない」

「それは澄香だからだ。
澄香の失敗は仕方がないけれど
最小限になるよう必死だったんだよ。
だけど最後で嫌味を言ってしまった」

そうか、甲矢も若いんだ。
私はいつの間にか甲矢が完璧な人間だと
思い込んでいた。
でも違った。私と『同じ』人間なんだ。

私と甲矢の周りを大勢の人が通り過ぎてゆく。
だけど私は独りじゃない。
私はふんわり笑った。

「あ、マスク越しじゃわからないよね」

「いや、今笑っただろ。目を見れば分かる」

「そう、分かるんだ。ね、その缶ちょうだい。
それで珈琲を飲み終わったら
鍋の材料買って二人食べようよ」

「え、鍋作るの。
うんうん。二人で作ろう
それじゃぁ善は急げだ。
珈琲飲んじゃうな、て熱い熱いっ」

「もう、甲矢落ち着いて。
もう少ししたら近くのスーパーが
特売のシールを貼るから
それに間に合うようにして行こう」

「うわぁ、特売かぁ。
じゃぁ、珈琲飲みながら
何を買うか決めようか。
澄香、スマホにそのスーパーの
特売情報載ってないか」

「うーん。あと10分位で載るよ。
だからゆっくり飲んでね」

私はホットカフェオレの缶で
手を温めながら甲矢に言った。
食後に飲もう。
甲矢の好きなスイートポテトと
一緒に。
私はふふと笑う。

甲矢はそんな私を不思議そうに
見ていた。





善き事がありますように。
お読みいただきありがとうございました。
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宇宙生物ぷりちーぴm(__)m
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